2017年04月17日  雑記 

りゅうおうのおしごと! 1~5巻 将棋ネタまとめ&感想

 小説『りゅうおうのおしごと!』の1~5巻を読んだ。面白かった。
 「熱い」対局シーンや幼女の可愛さが魅力の作品だが、忘れてはいけないのが文のあちこちに入った将棋ネタ。熱心な将棋ファンである作者が繰り出すネタは質、量ともに優秀で、読んでいる間にニヤリとすること多数、大笑いしてページをめくる手がとまることも何度かあった。
 今回はその将棋ネタをまとめ、感想を書いてみたい。すべてのネタを網羅したかったのだが、あまりのネタの豊富さに途中で心が折れてしまったため、特に印象に残ったものや面白かったものを中心に紹介する。やや既読者向け。

 すでに同じような記事がネット上に複数存在しているだろうが、そんなことを気にしたら負けなのだ。将棋の大事な考え方「投了はだいたい悪手」を信じて投稿してみよう。


清滝師匠について
 『りゅうおうのおしごと!』はプロ棋士である主人公の師匠が会館から放尿するという恐るべき場面から始まる。そして恐ろしいことにこの場面には元ネタが存在する。米長邦雄のエピソードだ。清滝と同じように将棋で負けた悔しさから放尿を試みたが、完遂した清滝に対しこちらは周りの必死の静止により未遂に終わった。このあたりが現実とフィクションの違いだろうか。
 放尿という衝撃的なイベントで一般読者に興味を持たせ、このネタを出してくるのか!?と将棋ファンを驚かせる、幅広い読者層にインパクトを与えるツカミといえよう。

 ズボンを脱いだ師匠の様子は次のように表現されている。
「そして今、師匠は若々しさと共に下半身をも解き放ち」 (第1巻P12)
 股間はともかく若々しさとはなんだろう?と思わないだろうか。これも将棋ネタであり、谷川浩司が新聞の取材を受けたときの見出しが元になっている。神戸育ちらしい、いかしたファッションである。

 米長と谷川は将棋連盟会長経験者。冒頭を飾るネタで大物をイジり、怖いもの知らずなところを見せつけた。

 師匠のモデルについて初見時私は、50才くらいの関西棋士で良く喋りA級や最高位挑戦の経験がある棋士ということで阿部隆を想像した。しかし後に読んだ場面(5巻P313)の月光会長との会話は井上慶太のイメージだろう。
 4巻のあとがきにもあるように、キャラクターのモデルに正解は無い。この作品には清滝のように何人かの棋士のイメージやエピソードを組み合わせたようなキャラクターが何人も登場する。



主人公の八一について
 私は八一の描写の中に3人の棋士のイメージを見た。
 まず、4人目の中学生棋士、渡辺明。5巻の名人戦の多くも渡辺の将棋が元になっている。
 1手損角換わりを中心とした変態的な戦法選択は糸谷哲郎から。糸谷は竜王を獲得した関西期待の若手だし、ハワイ対局で「アローハ」と言ったのも糸谷。前夜祭の場でやたら難解な挨拶をしていて面白いので、よかったら読んでほしい。→参考リンク
 そして、タイトルを獲得してから不調に陥ったことのある森内俊之。 対局に負けた直後東京から神奈川まで走る場面の元になったのも森内のエピソード。ちなみに、森内は神奈川の自宅まで走って帰ったのであって、神奈川の駅から電車に乗った八一とは少し状況が異なる。森内の弟子には女流棋士の竹俣紅がいるが、若い女流棋士の師匠である点も意識されているというのは考えすぎだろうか。
 3人全員が竜王経験者である。主人公なので注意深く探せばもっと沢山の棋士のイメージを見つけられるかもしれない。



夜叉神天衣の棋風
 2番目の弟子天衣に2人の棋士のイメージを見た。面白い組み合わせなので紹介したい。

 受けに力を発揮する天衣が、次のように表現されている場面がある。
「鉄板のような精神力だ」 (2巻P67)
 これは"鉄板流"森内俊之を示している。本人は好きじゃないらしい二つ名だけど、やっぱり私はこれがしっくりくるね。
 上に書いた通り師匠は森内成分を含む。八一の棋譜を通じて将棋を覚えた天衣は、森内成分まで受け継いだのかな?などと考えると楽しい。

 天衣の特徴は受けの強さだけではない。一手損角換わりや角交換振り飛車が得意で、序盤感覚に優れ、独創的な指し回しを見せる。これは佐藤康光のイメージだろう。これだけだと根拠に乏しいようだが、森内と同じように文中にヒントが書いてある。
『天衣無縫』 (2巻P220)
 佐藤には「変態流」「緻密流」「一億と三手読む男」などの二つ名があるが、私はこの天衣無縫というのが好き。

 空中戦が得意なオールラウンダーで、高い終盤力を持ち、道場で極端な低級から始めたあいには羽生善治のイメージを見ることができる。一方ライバルキャラの天衣は、羽生と長年戦ってきた森内佐藤のイメージを兼ね備えてあいに対抗している。そういう構図なのかもしれない。



「りゅ、りゅ、」
「りゅ、りゅ、りゅ、りゅうお」 (2巻P129)
 照れ屋な生石飛鳥は竜王に声をかけるのも一苦労で、何度もつっかえてしまう。とてもかわいらしいこの場面にも、多分元ネタがある。大盤解説をする村田顕弘だ。


(0:50~)

 予想外の指し手を伝えられた村田はひどく動揺して「りゅ、りゅ、竜を!?」と言った。この場面からキャラクターが誕生するとは全く思わなかった。
 村田の場合は「りゅ、りゅ、」のあとに来る言葉が「竜を」なのに対し、飛鳥の場合は「竜王」に変わっているのが面白い。



盤の星
 2巻のあとがきのどの部分が将棋ネタかわかるだろうか。
 答えは全部である。
 元ネタはこちらを読んでもらいたい。短くはないけれど、非常に面白いのでぜひ。
 ほぼ引用みたいなものなので、初めて読んだとき大笑いした。特に最後の決め台詞は非常に面白く、必見だ。

 配役は次のようになる。
   八一 → 先崎
   万智 → 郷田
   燎  → 中村
   銀子 → 羽生
 八一が担当する先崎の師匠は、清滝放尿事件のモデルとなった米長。これは流石に偶然だろうが、こういう読み方ができると楽しくて良いですよ。


次回へ続く。
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